お知らせ

  • データの移行について
    2005年10月26日のブログ開始当初から、2024年11月30日までの記事は、「猫の欠伸研究室(アーカイブ)」に移行しました(http://blog.livedoor.jp/taichimaru151/)。 このココログの「猫の欠伸研究室」には、2019年1月以降の記事を残し、2018年12月以前の記事は削除しました(2019年1月1日から2024年11月30日までの記事は、両方にあります)。

レンズを通した自然観察

  • この「レンズを通した自然観察」ということばは、恩師のお一人が、私の趣味を形容しておっしゃったものです。2023年2月7日のブログに書きましたが、実はときどき思い出していることばです。お世話になった先生方はたくさんいらっしゃいますが、この恩師は、就職のことから学位論文の執筆、審査に至るまで本当にお世話になった先生です。「写真の撮り方を指南してもらいたい」ともおっしゃったのですが、これはお世辞と理解しています。私はほぼ隠居状態となって10年以上になりますが、今、改めてこのことばをかみしめています。この先生には結婚式の際に「理論と臨床をつなぐ仕事をするように」ということばをいただきました。体調を崩してそれには十分に応えられませんでしたので、せめてこの「レンズを通した自然観察」については、極めるとまでは行かないにしても、もう少し精進したいと考えています。

ブログ名の由来

  • ブログ名の「猫の欠伸研究室」は、中日新聞の夕刊に連載されている「紙つぶて」というコラム(平成22(2010)年1月13日)に、元新党さきがけ代表の武村正義さんが書いていらっしゃった「人生は猫の欠伸である」というコラムによります。武村さんは、“チベットで鳥葬を取り仕切る僧侶が、「人の生涯は猫の欠伸のようなもの」と語った”と書いていらっしゃいます。「猫の欠伸のようなもの研究室」としたかったのですが、ちょっと間延びしますので、「猫の欠伸研究室」とした次第です。「研究室」とつけたのは、過去、大学に勤めていたことがあるということやら、知らないこと、分からないことがあると何でも調べずにはいられない性分であること、屁理屈、講釈が大好きであることからであります。しかし、「人生の研究をしている」のではありません。「大所高所」からのご高説を開陳できるほどの力量はないが故、「小所低所」からの戯れ言をつぶやくのが精一杯(苦笑)。身の程に合わせ、勝手なことを書き綴っていますので、御用とお急ぎでない皆様には、今後ともご交誼のほど、お願いいたします。是非ともコメントを頂戴し、少しでも世間を広げたいと熱望しております。

モットー

  • 座右の銘というほど立派なものはありませんが、過去に体調を崩し、療養生活を送った経験から、私なりのモットーをつくっています。その一つは、「淡々と飽きもせず……」です。自分では、「……」と余韻を残しているところが気に入っています。こだわりすぎや、やり過ぎはよくありません。若い頃はムキになってやったこともありますが、今はこのように「淡々と飽きもせず……」が自分に合っていると思っています。もう一つは「晴耕雨読」ならぬ「晴歩雨読」です。マンション暮らし故、耕すところはありません。代わりに歩いています。そして、最近(令和3(2021)年に入った頃から)追加したのが、「散歩生活、ときどき仕事」。NHKのテレビ番組に「晴れ、ときどきファーム!」というものがあります。これのもじり。浅学非才の身ですので、ご交誼の上、いろいろとご教示をお願いします。

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2019年10月12日 (土)

20191005近鉄ハイキング「お伊勢さん参りハイキング 昔も今もお伊勢参り~旅9日目~伊勢街道、旅人気分で雲出から城下町松阪へ」(その1)……伊勢中川駅を出発、初瀬街道に入ってまずは神社めぐり、小川神社、西方寺、常夜燈そして須加神社へ

 10月5日に行ってきた近鉄ハイキング「お伊勢さん参りハイキング 昔も今もお伊勢参り~旅9日目~伊勢街道、旅人気分で雲出から城下町松阪へ」の本編、その1です。翌日は研修会講師、その次の日は歴史講座参加、水曜日は江戸橋での授業、さらに本業の相談業務が重なり(どっちが本業か、よく分かりません。散歩業が本業かも)、遅々として進んでいませんが、まぁボチボチ。モットー通り、「淡々と飽きもせず」で参りましょう。

Img_3827c_20191005205501  この伊勢参りハイキングも9回目。これまでのところ、コンプリートしています。この日は、近鉄・伊勢中川から近鉄山田線・松阪駅までの12㎞。天気がよく暑いくらいでした。ところどころ、風がよく通るところがあり、そういうところはよかったのですが……。今回も、畏友Mさんと二人旅(「ブログには、今回もMとして登場しますか?」と確認されました。もう少し登場したいということでしょうか……笑)。

Img_3370c 今日の受付は、近鉄名古屋線・伊勢中川駅の西口で、9時半から11時。桑名駅を8時42分発の松阪行き急行540pxrail_tracks_map_kintetsu_isenakagaw に乗車。伊勢中川駅 には9時40分着。¥900。伊勢中川駅は、名古屋線、山田線、大阪線の接続駅。昭和5(1930)年、参宮急行電鉄が開通した時に参急中川駅として開業しています。右の画像は、Wikipediaからお借りしたものを加工しました。乗り換えに便利なように、1~5番線間にはすべてホームがあり、2~4番線は両側をホームで挟まれる構造になっています(左の写真でもお分かりいただけると思います)。また、駅構内に、名古屋線・大阪線間を短絡する中川短絡線があります。ちなみに、伊勢中川駅では乗り換えたことはありましたし、大阪方面へ往き来するときに短絡線を通ったことは何度もありましたが、降りるのは初めてでした。ちなみに、ここまで来ると、「赤福」の看板がきわめて多数出ています(写真にはありませんが)。ベンチも全部といってよいほど「赤福」となっていて、伊勢も近いという気持ちになります。

Img_3834c_20191005193001  いつも通り、コースマップを受け取り、あみま倶楽部のスタンプをいただき、さらに今日は、「KIPS対象ハイキング」といImg_3375c うことで、KIPSポイント100Pもプレゼントされました。あみま倶楽部のスタンプは27個目をゲット。伊勢中川駅をスタートしたのは、9時52分。右の写真のように上天気。

Img_3378c  こちらがこの日のコースマップ。伊勢中川駅をスタートして、小川神社、中原Img_3383c_20191005192301 神社などを回って市場庄のまち並みへ行きます。伊勢中川駅を出てしばらくのところから、市場庄に入る手前までは、奈良との間の初瀬(はせ)街道(長谷街道などともいいます)を歩きます。その後、松阪市街地に入って薬師寺(仁王門など)、旧小津清左衛門家、三井家発祥地、豪商のまち 松阪観光交流センターから鶴の玉本舗たつみ堂を経て、近鉄山田線・松阪駅北口がゴール。途中、市場庄のまち並みは、前回のハイキングコースと重複しています(20190922近鉄ハイキング「お伊勢さん参りハイキング 昔も今もお伊勢参り~旅8日目~伊勢街道、旅人気分で垂水から雲出へ」(予告編)……歩きも歩いたり、15.6㎞)。

191005kintetsuhikingisenakagawa  実際に歩いたルートマップ。伊勢中川駅は、以前は嬉野町でしたが、広域合併にともない、松阪市になりました。上述の通り、伊勢中川駅を出て三渡川の三渡橋のところまでは、基本的に初瀬(はせ)街道を歩きました。三渡橋の南のたもとが、長谷街道と伊勢街道の合流点。ここからが、伊勢街道。近鉄山田線・松ヶ崎駅の西までは、前回歩いたところです。ただし、前回見逃した神楽寺に立ち寄っています。松ヶ崎駅の西から松阪駅までの約4㎞が、伊勢街道としては、今回新たに歩いたルートということになります。

191005kintetsuhikingisenakagawa1  伊勢中川駅を出てまずは南へ。中川駅西から、常念寺前の交差点で右折。ここから初瀬街道に入ります。常念寺前の交差点かImg_3384c_20191009215201 らすぐ、スタートから700mほどで小川神社に。その先、西方寺の前を通って進みます。1.2㎞ほどのところ、南浦団地公園の東あたりで常夜燈。このあたり、すぐ西に名松線が走っていて、時々線路が見えます。名松線は、松阪駅から津市の伊勢奥津駅まで走るJR東海の路線。松阪から名張を結ぶ計画でしたので、「名松線」。一度乗ってみたいところ。

Img_3399c  小川神社です。創立や由緒は不詳ですが、式内社です。江戸時代には「二天王子」と称しました。明治40(1907)年9月に宮古の郡一神社、小Img_3408c_20191010080001 川の田中神社・八幡神教・加茂神社を合祀し、明治41(1908)年6月に中川村全城の鎮座31社を合祀し、小川神社となっています。ここ小川神社や、この先で訪れた神社では、右の写真のように、合祀100年の紀念碑が建っていました。社伝では、「往古丹波渓戸と云う医師が常に高於加美命・大国主命を信仰したが、この後宮帳に入れ、郷名を採り社号とし、且つ村名とした」とされます。

Img_3430c_20191010080001  御祭神は、高裁加美命(たかおかみのみこと;雨をつかさどる神)、大国主命素直鳴尊大日霊命天忍穂耳命少彦名命天児屋根命応神天皇宇迦之御霊命武甕槌神火之迦具土神事代主神大山津見神、加茂明神、菅原道真です。合祀が行われたためなのでしょうが、14柱もの神様がいらっしゃいます。合祀前、それぞれの神社にそれぞれの理由、由来があって神様を祀っていたと思うのですが、合理的な観点(神社の数を減らし残った神社に経費を集中させることで一定基準以上の設備・財産を備えさせ、神社の威厳を保たせて、神社の継続的経営を確立させるため)だけから合祀をしたのは、ちょっと乱暴な気がします。神社合祀は、明治39(1906)年、第1次西園寺内閣において進められ、当初は地域の実情に合わせかなりの幅を持たせたものであったといいます。しかし、第2次桂内閣の内務大臣平田東助がこれを強固に推し進めることを厳命したため、大正3(1914)年までに全国で約20万社あった神社のうち、7万社が取り壊されたそうです。三重県では、県下全神社のおよそ9割が廃されることとなりました。

Img_3411c_20191012084101  古い常夜燈がありましたが、中央の大きな常夜燈は部分的に破損しているように見えます。正面には「(両宮/常)夜燈」とあります(括弧内は破損しています)右には「村中」、左には「(天保五)年甲午七月」とあります(天保5年は1834年)。手前に立つ2基の常夜燈には、「元禄十Img_3422c_20191012084101 二巳卯年三月吉日」と刻まれています。元禄12年は、1699年。300年以上前のもの。拝殿に向かって右手(東)には、山の神と、稲荷社もありました。

Img_3395c  これもよく調べて行かなかったのですが、小川神社の西に小泉山常念寺(こいずみざんじょうねんじ)があります。天台真盛宗西来寺末。開基、当地に建立された経緯は、兵火に遭った伽藍と共に記録等を焼失したため不明です。しかし、「一志郡史」に掲載された由緒書によれば、織田信長の兵火に焼失した中川村十三仏にあった不断念仏の道場、大念仏寺を起源とし、文明年間(1469~87年)に天台宗真盛派西来寺末となったといいます。よく調べなかったので、写真を1枚撮っただけでしたが、伊勢中川駅から来て曲がった交差点の名前が「常念寺前」でした。このあたりでは珍しい「向拝造り」の仏堂があるということでしたし(向拝とは、社寺の堂や社殿の正面階段上にふきおろしの屋根、ひさしをつけたところで、そこで参詣者が礼拝します)、山門前には「真盛上人(しんせいしょうにん)御旧蹟」と刻まれているそうです。真盛上人は、伊勢の生まれ。室町後期の天台宗の僧で、真盛派の開祖。    

Img_3438c

 小川神社の先には、真宗高田派の小川山西方寺。後からしまったと思うことが多いのですが、初瀬街道沿いの予習が不十分でした。みえの歴史街道「初瀬街道」によれば、「門前に壇の浦の戦いに敗れた平家にまつわる伝説がある五六橋がかかる」とありました。知っていればもっとよく見てきたのに。確かに門前に用水路のようなものがあり、短い橋がかかっていました。関連があるのかよく分かりませんでしたが、平清盛の孫の六代が隠れ住んだという伝承がある山間部の集落に「平六代(たいらのろくだい)の墓があるそうです。

Img_3439c_20191012085101  西方寺の先の初瀬街道の様子。足下を見ると、旧・嬉野町のマンホール。ハイキング・ウォーキングで歩いていると、マンホールの蓋のデザイン、けっこう気になります。旧・嬉野町の町の花が山百合、町の鳥が雉でしたかImg_3442c_20191012085101 らそれをデザインしたものでした。西方寺を過ぎてようやく1㎞。

Img_3446c  南浦団地公園近く、1.2㎞ほどのところに常夜燈がありました。正面には「常夜燈」、右には「小川氏子中」、左には「昭和六年十一月建之」。昭和6(1931)年になってからもこういう常夜燈を建てたものなのだと感心します。

Img_3456c  スタートから1.8㎞ほどで左手(東)に旧・嬉野町役場が見えてきます。平成17(2005)191005kintetsuhikingisenakagawa2 年1月、松阪市、一志郡三雲町、飯南郡飯南町、飯高町と合併し、新しい松阪市になっています。町名は、およそ2,000年前に倭姫命が阿坂の賊徒を平定した折に「うれし」と喜んだという伝承に由来します(こういう話を読むと、何だか楽しくなります)。このあたりから、実測ルートマップはその2に。初瀬街道のすぐ西には、JR名松線が通っていて、ところどころで線路が見えます。松阪駅から伊勢奥津駅の間、43.5㎞。赤字路線で、平成21(2009)年の台風18号により甚大な被害を受け、JR東海は部分廃止・バス転換を打ち出したものの、沿線自治体の支援により平成28(2016)年3月に運行が再開されました。一度乗ってみたい路線です。JRさわやかウォーキングも行われるようになったのですが、全線通して運転されているのは1日6往復(途中の家城までは8往復)ですから、よく調べて行かないといけません。

 遅くなった割りに余談が多くて読みにくくなっています。勘と記憶を取り戻すのに、グダグダしており、大変恐縮です。

Img_3488c_20191012090401  旧・嬉野町役場は、社会福祉センターや体育センターになっています。このすぐ南にある須加(すが)神社が次の立ち寄りImg_3467c 先。スタートから約2.2㎞、10時半少し前。須賀の里の産土神でした。左は表参道を出たところの様子ですが、初瀬街道を左折して東に向かうと、裏参道から入ります(右の写真)。式内社。垂仁天皇の18年、倭姫命が天照大御神を奉じて伊勢へ向かわれる途中、鈴鹿の忍山からここにいらしたとき、阿射加山(今の松阪市阿坂付近と思われます)に荒振る神があって難渋した時、大若子命に命じてその神を鎮められたといいます。倭姫命はとても喜ばれて「あな嬉し」とおっしゃっり(既述の通り)、この地に創建されたのが、須加神社といいます。江戸時代には須加権現と称されました。明治41(1908)年5月、旧・豊田にあった鎮守神社、秋葉神社、金刀比羅神社、八雲神社、八重垣神社、八王子神社、鏡神社、八幡神社、若宮神社、稲荷神社、春日神社、宇氣比神社、山神社を合祀しています。

Img_3481c_20191012090501  主祭神は、道生貴神(みちぬしのむちのかみ)。筑前の宗像神社と同じ神様であり、みちびきの神です。ちなみに、「貴(むち)」はもっとも高貴な神に贈られる尊称で、道主貴(宗像三女神)以外には、伊勢神宮の大日靈貴(おおひるめのむち)(天照大神)、出雲大社の大己貴(おおなむち)(大国主命)のみとなっています。初瀬街道を行くたび人が多数参拝したと思われます。相殿神は、素盞嗚尊(高天原から追放され、出雲に降り、八岐大蛇を退治し、奇稲田姫(くしなだひめ)を救い、大蛇の尾から得た天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)を天照大神に献じた)、大日孁貴命(天照大神の異称)、天児屋根命(天照大神が天の岩屋に隠れたとき、祝詞を奏した神)、御食津神(みけつかみ;食物をつかさどる神)、応神天皇迦具土神(かぐつちのかみ;火の神)、大国主神(おおくにぬしのみこと;出雲大社の祭神)、五男三女神(天照大神と素戔嗚尊とが誓約して生んだという五柱の男神と三柱の女神)、大山祇神(おおやまつみのかみ;山を司る神)、仁徳天皇八島士奴美尊(やしまじぬみのかみ;素戔嗚尊の子で、母は櫛名田比売(くしなだひめ、奇稲田姫)。木花知流比売(このはなちるひめ)を妻にむかえ、布波能母遅久奴須奴(ふはのもじくぬすぬの)神をもうけた)、奇名田姫命(八岐大蛇のいけにえとなるところを、素戔嗚尊によって助けられ、その妻となった)、足名椎命(アシナズチノミコト、脚摩乳;大山祇神の子で妻は手摩乳。奇稲田姫はその末娘)、手名椎命(テナズチノミコト、手摩乳)、天忍穂耳命(アマノオシホミミノミコト;瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)の父、正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊)、不詳一座となっています。

Img_3474c  境内には、橿原神宮遙拝所があります。また、ここにも、小川神社と同じように、合祀祈念碑が建てられていました。「式Img_3470c 内 須加神社合祀百季記念碑」と刻まれています。表参道の案内板に境内の石段横には「天の真名井」と言われる天然の井戸があるとありました。その底は計り知れず、俗に山辺の清水というそうです。さらに、石段には万福寺と刻んだ石があり、神仏習合の跡が見られるともありました。が、ここでも予習不足を露呈(苦笑)。見てきませんでした。ちなみに、万福寺は、このすぐ南に同じ名前の浄土宗の寺があります(立ち寄ってはいません)。

Img_3496c  表参道の西あたりに石標が2基あります。こういうものがあるとどうしても惹かれます(苦笑)。ささいなこImg_3499c と、どうでもよいことが気になりがち。正面には、「式内 須加神社 是」とあり、他にも「権現村前」などが刻まれています。須加神社への道標のように思われますが、詳細は不明。この脇にも、石標があります(右の写真)。正面には「権現前邑権現社境内」と、また、右には「従是東権現社境内」とあります。

Img_3509c_20191012102601  予習不足を反省しつつ、初瀬街道に戻って先に進みますが、長くなりましたので、その1はここまで。その2は、中原神社から。

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    彬子女王殿下の英国留学記です。彬子女王は、ヒゲの寛仁親王のご長女。殿下は、女性皇族として初めての博士号をオックスフォード大学で取得されました。この留学記は、ネットで話題になっていましたので、ぜひとも読んでみたいと思っていました。今上天皇の「テムズとともに」も読んだことがありますが、皇族の皆様は、どなたも誠実で朗らかで、それでいてユーモア溢れるお人柄をお持ちのようですが、殿下も同様でいらっしゃり、それがよく感じられる文章で楽しく拝読し、爽やかな読後感を持ちました。 (★★★★★)

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    森永 卓郎: 書いてはいけない
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    立木 康介: フロイト『夢判断』 2024年4月 (NHKテキスト)
    何を今さら勉強しているのか? と思われるかも知れませんが、ちょっと前に流行った言葉でいえば、リスキリングに相当するかも知れません。学生時代に読みましたが、しっかり理解したかといえば、アヤシいのです。学生時代からは50年近い月日が経っていますので、その後の研究成果も含め、新しいことがあるだろうと思ったのです。100分de名著というNHK Eテレの番組のテキストです。講師の立木先生は、パリ第8大学で精神分析の博士号を取得され、京大人文科学研究所の教授。精神分析は「昨日までとは違う自分を手に入れるために行う」とおっしゃっていました。この番組でもっとも印象に残ったのは、あの有名な「エディプス・コンプレックス」よりも、今日、重要なフロイトが提案した概念は、「両性性」であるということでした。これは、いかなる個人も与えられた解剖学的性にしばられないセクシュアリティの自由を持つことをうたうものです。この視点に立てば、同性愛も、トランスジェンダーもいわば当たり前の存在であるということになります。これらを踏まえると120年間に書かれた「夢判断」の内容は、きわめて今日的な意義を持ってくると再認識する必要があります。 (★★★★★)

  • 諸富 祥彦: NHK「100分de名著」ブックス フランクル 夜と霧

    諸富 祥彦: NHK「100分de名著」ブックス フランクル 夜と霧
    フランクルのこの本は、改めて紹介するまでもないほど、有名な本です。私も学生時代、霜山徳爾先生の翻訳で読みましたが、ことばでは書き尽くせないほどの衝撃を受けたことを、いまでもよく覚えています。第二次世界大戦中にナチスの強制収容所に収監された経験をもとに、精神医学者・フランクルが、人生の目的を明確にし、その実現に向けて没頭する心理療法を紹介する本です。原題を直訳すると「それでも人生に然りと言う:ある心理学者、強制収容所を体験する」となります。実存心理学の名著であり、極限の環境におかれたとしても、何かが、あるいは、誰かがあなたを待っているということを主張しています。絶望して終わるのではなく、人生が何をわれわれに期待しているのかが問題であり、私たちはそれを学ぶことが重要だとしています。何度か読み直すことによって、人生への理解が深まる気がします。 (★★★★★)

  • 松田 忠徳, 増田 晋作: 枕草子の日本三名泉 榊原温泉

    松田 忠徳, 増田 晋作: 枕草子の日本三名泉 榊原温泉
    榊原温泉は、全国的に有名とはいえないかも知れませんが、名湯です。それは、枕草子に「湯は七栗の湯 有馬の湯 玉造の湯」にある、七栗の湯が榊原温泉と考えられるからです。最近、日本三名泉といえば、有馬温泉/兵庫県、草津温泉/群馬県、下呂温泉/岐阜県とされますが、枕草子に取り上げられたのはそれよりも古く、「元祖日本三名泉」といえます。榊原温泉の湯は、肌がきれいになる「美人の湯」というだけでなく、抗酸化作用もある健康の湯でもあります。この本は、日本一の温泉教授・松田先生と、地元を知り尽くした増田さんの共著で、「何もない」といわれていた榊原温泉の魅力を語り尽くしています。ちなみに、私にとっては家内の実家を知る上で格好のガイドブックです。 (★★★★)

  • 文藝春秋: 定年後に読む不滅の名著200選 (文春新書)

    文藝春秋: 定年後に読む不滅の名著200選 (文春新書)
    この本の帯には「これが定年後の知の道しるべ!」とありますが、私自身はさほど大上段に構えたつもりで読んではいません。どのような本が選ばれているかにももちろん興味はあったのですが、それらがどのように紹介されているかといった方面に興味があって読みました。本を紹介している方々はいろいろな分野で功なり、名を挙げた方ばかり。それらの方がどんな本を読み、どのように唱歌していらっしゃるかが知りたかったのです。ちょっと邪道な読み方ではありましたが、しっかりと楽しめました。 (★★★★)

  • 石田泰弘(編著): 街道今昔 佐屋路をゆく (東海の街道2) (爽BOOKS 東海の街道 2)

    石田泰弘(編著): 街道今昔 佐屋路をゆく (東海の街道2) (爽BOOKS 東海の街道 2)
    さほど本格的に取り組んでいるわけではありませんが、昔の街道を歩くのは好きです。この本のテーマである佐屋路(佐屋街道)も歩きたいと思って調べています。佐屋路は、東海道佐屋廻りとも呼ばれたように、東海道の迂回路でした。江戸時代に東海道宮宿と桑名宿の間を、陸路万場宿、佐屋宿の陸路を経て、佐屋から桑名宿への水路三里の渡しによって結んでいた街道です。実際に歩いて書かれたと考えられますが、旅人目線で書かれたウォーキングガイドです。津島街道、高須道も取り上げられています。部分的には歩いたところがありますが、佐屋路はいずれ、歩いてみたいと思い、計画中ですので、とても参考になりました。実際に歩かなくとも、歴史読み物としても楽しめます。 (★★★★★)

  • 柳瀬博一: カワセミ都市トーキョー 【電子限定カラー版】 (平凡社新書1049)

    柳瀬博一: カワセミ都市トーキョー 【電子限定カラー版】 (平凡社新書1049)
    東京都心にたくさんのカワセミが棲んでいるというのは、最近割とよく知られるようになっています。清流の鳥というイメージがあるかも知れませんが、東京の「野生」環境をうまく利用して繁殖もしています。そのカワセミが暮らす街は東京屈指の高級住宅街ばかりだそうです。すなわちカワセミも、人間も好む環境は同じというのです。カワセミが暮らす街は、人間にとってもよい街ということです。カワセミの存在に気付いたことから、「小流域源流」をキーワードに「新しい野生」と「古い野生」の繋がりを論じています。カワセミの生態も詳しく観察されていますので、私も今までよく知らなかったことが多々書かれていて、興味深く読みました。 (★★★★)

  • 内田 樹: コモンの再生 (文春文庫)

    内田 樹: コモンの再生 (文春文庫)
    私は、内田樹先生の評論が好きで割とよく読みます。「コモン(common)」とは、形容詞としては「共通の、共同の、公共の、ふつうの、ありふれた」という意味ですし、名詞としては「町や村の共有地、公有地、囲いのない草地や荒れ地」を意味します。昔は、ヨーロッパでも日本でも村落共同体はそういう「共有地」を持っていました。コモンを管理するには「みんなが、いつでも、いつまでも使えるように」という気配りが必要になるのですが、近代になって怒った「囲い込み」によって「コモンの私有化」が起こり、村落共同体が消え、集団的に維持されていた儀礼、祭祀、伝統芸能、生活文化が消えてしまったのです。著者は、このコモンを再生することが市民の原子化、砂粒化、血縁、地域共同体の瓦解、相互扶助システムの不在という索漠たる現状を何とかするために必要と考えています。ちなみに、マルクスとエンゲルスによるコミュニズムは、著者によれば「共同体主義」と訳した方がよく、彼らは「コモンの再生」が必要と提言したといいます。「共産主義」と訳されてしまったがため、なんだかよく分からないことになっているのです。「共有主義」あるいは「共同体主義」と意訳してくれていたら、もろもろが変わっていたかも知れないという話には、膝を打ちました。 (★★★★★)

  • 本田 秀夫: 知的障害と発達障害の子どもたち (SB新書)

    本田 秀夫: 知的障害と発達障害の子どもたち (SB新書)
    児童精神科医の本田先生の最新刊です。今回は知的障害が取り上げられています。これまでの本田先生の御著書では、発達障害が主に取り上げられてきたのですが、実は知的障害を持つ子どもたちも一定数存在していますし、発達障害と知的障害を合わせ持つ子どもたちもいます。その意味で、発達に困難のある子どもたちのことをきちんと理解して、適切な支援をする上では、両者を視野に入れることが重要です。著者は、知的障害の支援では、「早く」と「ゆっくり」がキーワードになると書いておられます。これは私もそうだと思います。可能な限り早期から支援を受けた方がよく、一方で、発達のスピードに合わせて「ゆっくり」としたペースで支援をすることが大切になります。発達障害の子どもたちにも「本児のペースに遭わせた支援が必要」とおっしゃる方がありますが、発達障害の子どもたちの理解/支援の上でのキーワードは「アンバランス」です。この本は、発達が気になるお子さんをお持ちの保護者の方、特別支援教育に携わる教員の方々にとって、基本的なテキストといえます。 (★★★★★)

  • BIRDER編集部: お手本でわかる!野鳥撮影術 (BIRDER SPECIAL)

    BIRDER編集部: お手本でわかる!野鳥撮影術 (BIRDER SPECIAL)
    バードウォッチングや野鳥撮影を趣味にしています。とはいえ珍鳥を追うのではなく、主に自宅近くを散歩しながら、いわば「定点観測」のように野鳥を見ています。自分の写真の撮り方を振り返ると、図鑑的に撮ることがほとんどです。なぜそうなのかを考えてみると、研究者の端くれであったことが関わっている気がします。つまり、写真を撮ることを、観察した記録やデータと見ているからではないかということに思い当たりました。野鳥撮影の「幅を広げたい」と思っていたら、この本が出版されました。ざっと目を通したところ、「色とりどりの花と鳥」「木の実レストラン」「やわらかい表情を追う」などさまざまなテーマで鳥とその周辺を撮る方法が載っています。これを参考に、自分の野鳥写真の世界を広げられたらいいなと思える本です。 (★★★★★)

  • 磯田 道史: 磯田道史と日本史を語ろう (文春新書)

    磯田 道史: 磯田道史と日本史を語ろう (文春新書)
    磯田道史さんが、さまざまな分野の達人と歴史についての論賛をしたのをまとめた本です。論纂とは、①人の徳行や業績などを論じたたえること、②史伝の終わりに著者が書き記した史実に対する論評のこと。異分野の専門家同士が議論をすることによって生まれるものは、別次元となり、大変興味深いものとなります。この本がその論より証拠。養老孟司さんとの論賛からは「脳化社会は江戸時代から始まった」という話が出て来ています。忠、孝、身分などは、シンボリズムであり、それらは見たり、触れたりできません。また、関東大震災に遭遇したことは、被害に対する鈍感さをもたらし、それが太平洋戦争につながったという指摘には、なるほどそういう面も確かにありそうだと思わされました。その他、歴史や人間について、実にさまざまな、新しい見方が示され、大変おもしろく読み終えました。 (★★★★★)

  • 保阪 正康: 近代日本の地下水脈 I 哲学なき軍事国家の悲劇 (文春新書 1440)

    保阪 正康: 近代日本の地下水脈 I 哲学なき軍事国家の悲劇 (文春新書 1440)
    本の帯に「『水脈史観』で日本の失敗を読み解く」とあります。「水脈史観」という概念には初めて接しましたが、「攘夷のエネルギーは、いまも日本社会の根底に流れている」という見方です。明治維新後、日本がとりえた国家像は、欧米型帝国主義国家、道義的帝国主義国家、自由民権国家、米国型連邦制国家、攘夷を貫く小日本国家の5つであったが、哲学なきまま欧米型帝国主義国家の道を突き進み、軍事中心の国家作りを推し進めたことが、戦前の日本の失敗の原因であったというのが著者の主張です。それは確かにそうだと思いますが、私には、ほんのサブタイトルにある「哲学なき国家」ということが、現代日本の様々な問題の背景にあるような気がしてなりません。 (★★★★)

  • 佐伯 泰英: 陰流苗木(かげりゅうなえき)~芋洗河岸(1)~ (光文社文庫)

    佐伯 泰英: 陰流苗木(かげりゅうなえき)~芋洗河岸(1)~ (光文社文庫)
    今回も特別に時代小説を取り上げます。この2つ前の本に佐伯泰英さんの「恋か隠居か 新・酔いどれ小籐次(二十六)」を取り上げ、これは佐伯さんの300冊目の「文庫書き下ろし小説」だと書きました。今回のこの本は、301冊目です。しかも、80歳を越えて、さらに新しいシリーズを始められたのです。美濃を食い詰めた浪人・小此木善治郎が、職なし、金なし、住むあてなしながら、剣の達人にしてとぼけた侍であるものの、なんとも頼りになる存在で、親切な住人や大家によって受け入れられた長屋の秘密と謎の渦に巻き込まれるという設定。これまたおもしろそうなシリーズです。毎月刊行で、全3巻の予定とか。第2巻が待ち遠しい内容です。 (★★★★★)

  • 養老孟司, 鵜飼哲夫: なるようになる。 僕はこんなふうに生きてきた(中央公論新社)

    養老孟司, 鵜飼哲夫: なるようになる。 僕はこんなふうに生きてきた(中央公論新社)
    養老先生の新刊が出たというので早速入手し、ほぼ一気に読み終えました。「はじめての自伝!」といううたい文句で、帯には「虫と猫と、バカの壁。考え続けた86年」ともあります。養老先生は、かなりしつこい性格でいらっしゃるようで、疑問に思ったことは「まぁいいか」などと思わず、考え続けてこられたそうです。その結果が、これまでのユニークな著作に結実しています。それはさておき、考え続けた結果、「なるようになる。」というのが、養老先生の現時点での結論だそうです。「なるようにしかならない」ではなく、「なるようになる。」のです。物事は、はっきりとした目的意識があって進むのではないので、「なるようになる。」なのです。忘れてしまったような些事がその後の人生を動かしてきたかもしれないともあります。なるほどと、この本を読み、養老先生の来し方をいささか知ると、納得できます。というか、納得した気になっているだけかも知れませんが…… (★★★★★)

  • 佐伯 泰英: 恋か隠居か 新・酔いどれ小籐次(二十六) (文春文庫)

    佐伯 泰英: 恋か隠居か 新・酔いどれ小籐次(二十六) (文春文庫)
    佐伯泰英さんは、この本で「文庫書き下ろし小説」というジャンルで300冊刊行を達成されました。佐伯さんの時代小説はすべて読んでいます。まさにストーリー・テラーといえる作家で、実に読み応えのある時代小説をたくさん書いておられます。このシリーズは、いったん完結となったかと思ったのですが、この「恋か隠居か」で復活しました(と理解しています)。隠居を考える小籐次ですが、小籐次親子に挑戦状が届くところから始まる物語。今回も楽しめました。 (★★★★★)

  • 安藤優一郎: 15の街道からよむ日本史 (日経ビジネス人文庫)

    安藤優一郎: 15の街道からよむ日本史 (日経ビジネス人文庫)
    街道歩きを少ししています。三重県内では、東海道のほとんど、伊勢参宮街道、美濃街道・養老街道などを歩きました。もっとあちこちの街道を歩きたいと思っていますが、そのときにこの本が出版されましたので、早速入手して読みました。芭蕉の奥州街道、伊勢参宮街道のお伊勢参り、武士の旅日記などの章をとくに興味深く読みました。主要な街道を取り上げることで読みやすい歴史物語となっています。 (★★★★)

  • 大芦治: 心理学をつくった実験30 (ちくま新書)

    大芦治: 心理学をつくった実験30 (ちくま新書)
    「誰もが一度は耳にしたことがある有名実験の背景・内容・影響を紹介、新たな心理学像を呈示する」と帯にあります。心理学全般に関心を持つ社会人を読者に想定しているといいますが、私には心理学史のテキストとして、あるいは、入門段階の心理学を学んだ方がさらに学習を深める際に読む本としてもよいかも知れません。 私自身も、心理学の教科書を執筆したことが何度かありますが、そこに引用する理論や実験については、いわゆる「孫引き」をしてしまったこともよくありました。この本の著者は、可能な限り原典にあたって執筆していらっしゃり、その意味では参考になったところが多々あります。 ところで、著者は心理学の未来にあまり明るい展望を持てないようです。臨床心理士、公認心理師の資格が人気を集め、心理学部などもたくさん設けられました。私自身の勝手な個人的意見を書けば、資格ができると、レベルは下がると思っています。根拠はありません。個人的な印象によるものです。私は実験心理学でトレーニングを受け、臨床心理の分野に進みました。心理学の基本は実験心理学と個人差測定心理学にあると思っています。学部段階からいきなり臨床心理学プロパーに進むのは、相当よろしくないと思います。臨床実践にあたってはその基礎となる確かな、科学的な学問(知見、理論なども含む)が必要です。また、仮説演繹法などのものの見方もきちんと身に付ける必要があります。これらは実験心理学と個人差測定心理学から養われると思っています。 この本は、基礎的知識がない方がいきなり読むのは難しいでしょうが、科学的心理学を学びたいと思う方にはよい参考書となります。 (★★★★)

  • 磯田 道史: 家康の誤算 「神君の仕組み」の創造と崩壊 (PHP新書)

    磯田 道史: 家康の誤算 「神君の仕組み」の創造と崩壊 (PHP新書)
    磯田先生の書く本はどれもとても面白く読めます。といっても、私が読むのは研究書ではなく、新書だからなのかも知れません。この本は、家康がなぜ幕藩体制を創ることができたのか、江戸時代、誰が神君の仕組みを崩わしたのか、幕末、かくして神君の仕組みは崩壊した、神君の仕組みを破壊した人々が創った近代日本とは、家康から考える日本人というものという5つの章からなっています。家康は天下を取ったあとこの国を支配するのに巧妙な仕掛けをつくり、平和な時代が続いたのですが、誤算が生じて、徳川政権が変質し、崩壊に至ったと著者は考え、そのプロセスを俯瞰しています。いろいろな時点で「神君の仕組み」を骨抜きにする人物や政策が表れたといいます。組織が弱体化する姿を見ておくと、自分たちの劣化を防ぐ力が養われると磯田先生は述べています。徳川時代が現在にあたえている影響も多く、その分析も興味深く読めます。 (★★★★★)

  • 多井 学: 大学教授こそこそ日記

    多井 学: 大学教授こそこそ日記
    文庫本を買いに本屋に行ったら、平積みしてあるのを見つけて思わず買ってしまいました。私もその昔、ご同業だったことがあったからです。帯に「いくらでも手抜きのできる仕事」とありますが、私の経験でもそういう人もそれなりにいました。ちなみに私自身は、こき使われたと思っています。さらに「現役教授が打ち明けるちっとも優雅じゃない生活」とも書かれていますが、これはまさに私の体験と同じ。本に書かれていることがらも、ことごとく納得できます。私は、「そうそう!」といいながら読み終えました。大学教授で儲けている人はごく一部などなど。まぁ大学教授の仕事や生活に興味をお持ちの方は、さほど多くはいらっしゃらないとは思いますが、お暇な方にはどうぞ。 (★★★★)

  • 宮口 幸治: 境界知能の子どもたち 「IQ70以上85未満」の生きづらさ (SB新書)

    宮口 幸治: 境界知能の子どもたち 「IQ70以上85未満」の生きづらさ (SB新書)
    「境界知能」という言葉は、専門家はよく知っていると思いますが、一般のご父兄や、小中学校の先生方にはあまりなじみがないかも知れません。IQという指標でいえば、多くの場合70以上85未満の子どもたちがこれに該当する可能性があります。一見したところでは普通の子どもたちと変わりはなく、なかなか気づかれません。しかし、理論的には約14%の子どもたちが含まれますから、本の帯にあるように「日本人の7人に1人」となります。平均と知的障害のはざまにあり、気づかれにくいものの、授業について行けなかったり、友だちと上手くつきあえなかったり、感情のコントロールが苦手であったりして、当事者の子どもたちは苦戦し、辛い思いをしています。発達障害はよく知られるようになりましたが、境界知能の子どもたちにもしっかり目を向け、必要な支援を提供することは喫緊の課題といえます。この本では、境界知能とはどのような状態なのか、教科学習の前に認知機能を向上することの重要性、子どもの可能性をいかに伸ばしたら良いかについて具体的に、分かりやすく解説されています。 (★★★★)

  • 関裕二: スサノヲの正体(新潮新書)

    関裕二: スサノヲの正体(新潮新書)
    タイトルに惹かれて手に入れたものの、序章の記述が私にとっては退屈でしばらく放っておいたり、読み直そうと思ってくじけたりしていました。しかし、そこを乗り越えるとこの本はとても面白くなり、ほとんど一気読みしました。スサノヲ(素戔嗚尊)の正体を探るプロセスでアマテラス(天照大神)の謎も明らかにされて行き、それもとても興味深いものがあるのです。アマテラスは皇祖神とされますが、実在の初代王と言われる崇神天皇はアマテラスを伊勢に追いやっています。また、伊勢神宮を整備した持統天皇だけは伊勢に参ったものの、それ以降明治になるまで、1,000年以上も歴代天皇は伊勢神宮を訪れていません。明治天皇が東京に遷御したあと武蔵国の鎮守勅祭の社に定めたのは、スサノヲの祀られる氷川神社(現さいたま市)です。明治天皇は氷川神社を訪れた翌年に、伊勢神宮を訪れています。そもそも伊勢にいる神はアマテラスなのかという疑問にも立ち向かっている、古代史や神に関心がある方にはお勧め。 (★★★★★)

  • 安藤 優一郎: 大名屋敷「謎」の生活 (PHP文庫)

    安藤 優一郎: 大名屋敷「謎」の生活 (PHP文庫)
    時代小説をよく読みます。捕物帖、市井の人たちの生活、侍の物語、大名の話などいろいろとあります。庶民の生活については、これまでもいろいろな本でかなり知っていますが、大名の生活については分からないところの方が多いと思っていました。タイトルに惹かれて買ったのですが、大名やその家族の生活が詳しく書かれているのではなく、勤番侍の生活、大名屋敷の庭園、御用達商人や豪農、幕末の動乱と大名屋敷などの話が中心でした。それはそれで知らなかったことが多々あり、興味深く読みました。 (★★★)

  • 服部環ほか: 指導と評価2023年10月号(図書文化社)
    「指導と評価」は、日本教育評価研究会の機関誌であるとともに、日本で数少ない教育評価に関する月刊誌です。この号では、教育・心理検査の意義と活用という特集が組まれています。「教育・心理検査の意義」に始まり、WISC-Ⅴ、KABC-Ⅱなどの個別検査の使い方、解釈の仕方、指導への活かし方がそれぞれの専門の先生によってわかりやすく解説されています。特別支援教育の現場でも、きちんとした心理アセスメント所見に基づいた支援を展開することが望ましいのですが、現場の先生方には敷居が高いようです。ご関心がおありの方には、どのように使えるか、どのように考えたらよいかについて基本的なことがらを理解するのに適しています。出版社のWebサイトからバックナンバーとして購入できます。 (★★★★)
  • 石田 光史, 樋口 広芳(ナツメ社): ぱっと見わけ観察を楽しむ 野鳥図鑑

    石田 光史, 樋口 広芳(ナツメ社): ぱっと見わけ観察を楽しむ 野鳥図鑑
    野鳥図鑑はすでに何冊も持っていますが、この野鳥図鑑は、2015年の刊行で、なぜ今までこの存在に気づかなかったと反省するほど便利そうなもの。掲載されているのは324種ですが、それぞれの特徴や、見わけのポイントがパッとわかるようになっています。その鳥の生活型や生息地、食性や羽色、形態などのほか、雌雄、夏羽冬羽、幼鳥などで特徴が異なる場合は、それらについても説明されています。観察したい行動から、おもしろい生態、探し方までもが載っていますし、鳥の鳴き声が聴けるQRコードも付いています。私自身、野鳥の特定がけっこうアヤシいので、しっかり活用しましょう。 (★★★★★)

  • 千枝大志(風媒社): 街道今昔 三重の街道をゆく (爽BOOKS)

    千枝大志(風媒社): 街道今昔 三重の街道をゆく (爽BOOKS)
    「東海の街道」シリーズの第4巻です。「街道歩きのお供に最適の1冊」といううたい文句。内容は、三重の主な街道、近世三重の城郭図・城下図を読み解く、お伊勢参り小咄、伊勢をめぐる〈参詣〉をデジタル化するの4章構成で、まさに三重の街道歩きの参考書としてよいと思います。私自身も県内の東海道、伊勢街道、美濃街道、濃州街道はほとんど歩き、ほかの街道も部分的に歩いていますし、城もここに載っているところはかなり訪ねています。デジタル化も、ブログに写真・記事を載せていますから、出来不出来はともかく、私も取り組んでいます。県内の街道はさらに歩こうと思っていますし、デジタル化にももっと取り組みたいと考えていますので、十分活用できるでしょう。 (★★★★★)

  • 唐沢孝一: 都会の鳥の生態学 カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰 (中公新書)

    唐沢孝一: 都会の鳥の生態学 カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰 (中公新書)
    都市にもたくさんの野鳥がいることを知る人は少ないかも知れません。私がいつも散歩している地方都市の公園では、これまで10年あまりで70種類近くの野鳥を観察しています。都会は自然の少ない人工的な環境にあふれていますが、野鳥たちはもともとの生態を活かしつつこれらにしたたかに適応してい生きています。この本では、カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽を取り上げ、その都会における生態や、活動の変化、人間と鳥との関係とその変化などについて多くの実例や、調査結果をもとに、豊富な写真を使って楽しく読めるようにまとめられています。 (★★★★★)

  • 堤未果: 堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい放題から身を守る方法 (幻冬舎新書)

    堤未果: 堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい放題から身を守る方法 (幻冬舎新書)
    「ショックドクトリン」とは、テロや大災害など、恐怖でこくみんが思考停止している最中に、為政者や巨大資本がどさくさ紛れに過激な政策を推し進める悪魔の手法のことです。アメリカでの3.11以来、日本でも大地震やコロナ禍の裏で知らない間に個人情報や資産が奪われようとしているというのがこの本のテーマ。パンデミックで製薬企業は空前の利益を得、マイナンバーカード普及の先には政府のよからぬ思惑があるなどよくよく注意し、自分の生命・財産を守らないといけないというのが著者の主張。「今だけ、自分だけ、お金だけ」という強欲資本主義に負けないようにするには、ちょっとした違和感を大事にし、お金の流れがその裏にないか、また、それで大もうけして回転ドアをくぐって逃げる輩がいないかをチェックすることです。また、政府が何か、大急ぎで導入しようとしたり、既存の制度を急拡大しようとするときは、要注意だそうです。 (★★★★)

  •  奥山景布子: 葵の残葉 (文春文庫)

    奥山景布子: 葵の残葉 (文春文庫)
    いわゆる「高須四兄弟」である徳川慶勝、松平容保、松平定敬、徳川茂栄は、幕末維新の激動期に、結局のところ官軍と幕府とに分かれて戦う運命になったのですが、この四兄弟を取り上げて埋もれた歴史を活写した小説。私自身は、桑名藩主であった松平定敬が取り上げられているので興味を持って手に取った次第。幕末維新は、次々に色々な出来事が起きて、さまざまな人たちの思惑も複雑に入り組んでいるので、小説にするのは難しいと思っていたのですが、隠れた主人公ともいえる高須四兄弟の視点からとても躍動感のある読み物になっています。また、この時期の歴史をより一層深く理解できたという感想も持っています。 (★★★★)