« 散歩する人も野鳥も少なし……九華公園の『桑名の東海道』資料、またもやなくなりました(涙) | トップページ | 台風の影響で終日蟄居……不善を為さず、勉強 »

2019年8月15日 (木)

「継次処理」と「同時処理」 学び方の2つのタイプ……藤田和弘先生の近著紹介

2019fujita  筑波大学名誉教授にして、日本K-ABCアセスメント学会前理事長の藤田和弘先生が、“「継次処理」と「同時処理」 学び方の2つのタイプ”(図書文化社)を9月20日に出版されます。このたび、刊行に先立って、この本をご恵贈いただきましたので、その内容を紹介します。

 継次処理と同時処理は、認知処理スタイルです。認知処理スタイルとは、外界の刺激を自分なりに理解して処理する働きを意味します。学習に関わる脳の機能は、神経心理学者・ルリア(Luria, A.R.)によって「プランニング」「注意」「符号化」の3つに大別されました。さらに、後に、ノーベル賞を受賞した神経心理学者・スペリー(Sperry, W.R.)による大脳半球機能化による研究、ルリアによる高次精神機能の神経心理学的モデルなどによって、この認知処理スタイルには、「継次処理」と「同時処理」との2つがあることが明らかにされています。継次処理は、1つ1つの情報を時間的な順序に従って処理するスタイルです。情報の順序や、系列性が重要な手がかりになります。一方、同時処理は、複数の情報をその関連性に着目して全体的に処理するスタイルです。どこか、初めて行くところにどのように行くかを例に挙げると、道順を聞いて行くのが継次処理、地図を見て行くのが同時処理です。また、漢字の書きを教えるのに、書き順を強調するのは継次処理、形や意味を強調するのは同時処理です。

 発達障害のある子どもたちでは、認知の偏り(アンバランス)をともなうことが多いことが知られています。認知の偏りがあるお子さんでは、高い認知機能を発揮できるときは、周りの子どもたちと同様か、もしくはそれ以上の成果を上げられます。しかし、低い認知機能しか発揮できないと、なぜそのようなこともできないのかといったことでつまずいてしまいます。このように認知に偏りがありますと、やる気や努力だけでは苦手を克服することがとても難しくなります。ましてや、苦手なところをレベルアップしようとして、反復学習を強いたり、ドリル学習を繰り返したりすることは、逆効果になることも多いのです。むしろ、やる気や自尊心が低下してしまうという二次障害を招きかねません。

 こうしたとき、子どもの認知の特性にマッチした支援や教え方、教材を用いることがとても重要になります。通常、教師は自分がどのような教え方をしているかはおそらくあまり意識していないと思います。継次処理-同時処理といった、認知処理スタイルの観点から見ても、教師自身がわかりやすい(得意な)教え方をしていることが多いかも知れません。それが、子どもたちの認知処理スタイルとマッチしていれば、子どもたちにもわかりやすいのですが、中にはマッチしていない子どももいます。支援がうまく行かない場合、教え方と子どもの認知処理スタイルとがうまくマッチしているか、振り返って見る価値があります。

 さて、この本では、次の5つの支援のステップを目指しています。

  1. 学習につまずきのある子どもの得意な「わかり方」を大人が把握する
  2. 子どもの得意な「わかり方」で大人が教える
  3. 子どもが学ぶ楽しさや達成感をたくさん味わう
  4. 子どもが自分に合った「学び方」を身につける
  5. 自律的で主体的な大人に成長する

 内容としては、これまでにK-ABC、KABC-Ⅱをもとに展開されてきた「長所活用型支援で子どもが変わる」シリーズの総まとめをベースに、4と5にある「子どもが自分に合った学び方を身につけ、自律的で主体的な大人になる」支援を目指しています。

 心理アセスメントについて、最近のトレンドは、子どもたち自身にも心理アセスメントの結果を伝え、子どもたち自身が自分の特徴を自覚した上で、大人の助けを得ながら自分でも自分に合ったやり方を工夫できるよう支援することにあります。この本は、子どもたちの認知処理スタイル、そのアセスメント、得意な認知処理スタイルを活かした支援の考え方、その実際例、子どもたち自身が自分に合った学習方法を身につけられるような支援について、全体像というか、俯瞰図を得られる内容です。特別支援教育に携わる教員の方々や、子どもたちの心理アセスメントに関わる心理職の方には必読と思います。

 ちなみに、私は、藤田先生には、国立療養所S病院時代に全国国立療養所児童指導員協議会筋ジストロフィー部会の研修会で講師をお願いして以来、WISCやWAIS、K-ABCの標準化作業にも誘っていただきましたし、K-ABCが出版されてからは、東海地区K-ABC研究会や、日本K-ABCアセスメント学会でも大変お世話になっています。このことは、他では書いたことがありませんが、学位取得にあたってもいろいろとご心配をいただきました。その意味では、私にとっては、直接教えを受けたり、研究指導をしていただりしたわけではありませんが、恩師とほぼイコールといえる先生です。

| |

« 散歩する人も野鳥も少なし……九華公園の『桑名の東海道』資料、またもやなくなりました(涙) | トップページ | 台風の影響で終日蟄居……不善を為さず、勉強 »

学問・資格」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 散歩する人も野鳥も少なし……九華公園の『桑名の東海道』資料、またもやなくなりました(涙) | トップページ | 台風の影響で終日蟄居……不善を為さず、勉強 »