お知らせ

  • データの移行について
    2005年10月26日のブログ開始当初から、2023年5月31日までの記事は、「猫の欠伸研究室(アーカイブ)」に移行しました(http://blog.livedoor.jp/taichimaru151/)。 このココログの「猫の欠伸研究室」には、2018年1月以降の記事を残し、2017年12月以前の記事は削除しました(2018年1月1日から2023年5月31日までの記事は、両方にあります)。

レンズを通した自然観察

  • この「レンズを通した自然観察」ということばは、恩師のお一人が、私の趣味を形容しておっしゃったものです。2023年2月7日のブログに書きましたが、実はときどき思い出していることばです。お世話になった先生方はたくさんいらっしゃいますが、この恩師は、就職のことから学位論文の執筆、審査に至るまで本当にお世話になった先生です。「写真の撮り方を指南してもらいたい」ともおっしゃったのですが、これはお世辞と理解しています。私はほぼ隠居状態となって10年以上になりますが、今、改めてこのことばをかみしめています。この先生には結婚式の際に「理論と臨床をつなぐ仕事をするように」ということばをいただきました。体調を崩してそれには十分に応えられませんでしたので、せめてこの「レンズを通した自然観察」については、極めるとまでは行かないにしても、もう少し精進したいと考えています。

ブログ名の由来

  • ブログ名の「猫の欠伸研究室」は、中日新聞の夕刊に連載されている「紙つぶて」というコラム(平成22(2010)年1月13日)に、元新党さきがけ代表の武村正義さんが書いていらっしゃった「人生は猫の欠伸である」というコラムによります。武村さんは、“チベットで鳥葬を取り仕切る僧侶が、「人の生涯は猫の欠伸のようなもの」と語った”と書いていらっしゃいます。「猫の欠伸のようなもの研究室」としたかったのですが、ちょっと間延びしますので、「猫の欠伸研究室」とした次第です。「研究室」とつけたのは、過去、大学に勤めていたことがあるということやら、知らないこと、分からないことがあると何でも調べずにはいられない性分であること、屁理屈、講釈が大好きであることからであります。しかし、「人生の研究をしている」のではありません。「大所高所」からのご高説を開陳できるほどの力量はないが故、「小所低所」からの戯れ言をつぶやくのが精一杯(苦笑)。身の程に合わせ、勝手なことを書き綴っていますので、御用とお急ぎでない皆様には、今後ともご交誼のほど、お願いいたします。是非ともコメントを頂戴し、少しでも世間を広げたいと熱望しております。

モットー

  • 座右の銘というほど立派なものはありませんが、過去に体調を崩し、療養生活を送った経験から、私なりのモットーをつくっています。その一つは、「淡々と飽きもせず……」です。自分では、「……」と余韻を残しているところが気に入っています。こだわりすぎや、やり過ぎはよくありません。若い頃はムキになってやったこともありますが、今はこのように「淡々と飽きもせず……」が自分に合っていると思っています。もう一つは「晴耕雨読」ならぬ「晴歩雨読」です。マンション暮らし故、耕すところはありません。代わりに歩いています。そして、最近(令和3(2021)年に入った頃から)追加したのが、「散歩生活、ときどき仕事」。NHKのテレビ番組に「晴れ、ときどきファーム!」というものがあります。これのもじり。浅学非才の身ですので、ご交誼の上、いろいろとご教示をお願いします。

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2019年3月29日 (金)

20190324近鉄ハイキング「昔も今もお伊勢参り~旅2日目~ 東海道、旅人気分で間の宿・富田から四日市宿へ」(その2)……八幡常夜灯、八幡地蔵堂、八幡神社跡、かわらずの松、妋石(みよといし;夫婦石)、光明寺を経て国道1号線に合流

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 3月24日の近鉄ハイキング「昔も今もお伊勢参り~旅2日目~ 東海道、旅人気分で間の宿・富田から四日市宿へ」のその2です。その1では、スタートから1.7㎞、時刻は10時に県道64号上海老茂福線の高架橋までやって来ました。ここで茂福町から八田に入ります。旧・東海道は、国道1号線の西側を通って行きます。

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 四日市自動車検査場を過ぎ、米洗川(よないがわ)の手前、西側に常夜燈があります。八幡常夜燈です。この常夜燈、あれこれImg_8160c 調べましたが、詳しいことがよく分かりません。南面には「南大神宮」と刻まれています。

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 常夜燈から道路を挟んで東、一段下がったところに石碑がありました。東を向いており、そこには「加藤茂雄君顕彰之碑」とあります加藤茂雄氏は、北勢地区車検場を設立(昭和32(1957)年)し、北勢自動車協会を発足させた方。その功を記念して昭和45(1965)年に北勢自動車協会が設立したものです。写真の背後に少し写っている青色の屋根の建物が、現在の四日市自動車検査場。

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 八幡常夜燈と、加藤茂雄君顕彰之碑のすぐ先に米洗川。左の写真は、その上流方向で、この先にその1でも触れた伊賀留我神社(北伊賀留我神社と南伊賀留我神社があります)や、その近くには、天武天皇迹太川御遙拝所跡があります。天武天皇が壬申の乱で、奈良の吉野を離れて鈴鹿を経て三重県に入り、迹太川(とおがわ)のほとりで天照大神に戦勝祈願したと日本書紀にありますが、迹太川は、現在の米洗川であると考えられています。

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 八幡常夜燈から300mほど、八田第一集会所の隣に、八幡地蔵堂と、伊勢国八幡神社跡があります。お地蔵様は、延命地蔵尊です。このあと通った金場町にある金場地蔵尊と同じ一つの石から作られた兄弟地蔵で、もとは羽津村の南北の入口(この地蔵は北の入口)に置かれ、村内に疫病が入り込まないようにするための結界地蔵といわれるものであったといいます。昔は、米洗川北側の常夜燈(上記の常夜燈と思います)の向かい辺りにあったのが、昭和4年(1929年)に、八幡地区の住民によって現在地に移設されたそうです(こちら)。残念ながら、金場地蔵尊は見逃してしまいました。地蔵堂の前には「真誉法眼(しんよほうげん)上座」という石碑が建っています。

Img_8192c_1  八幡神社は、勧請年代は不明ですが、江戸時代には一国一社の八幡神社として皇国66拝の1つとしてその名が聞こえていたといいます。村名も神社に因んで八幡村となっています。明治41(1908)年に志氐神社に合祀されて、ここ旧社地には「伊勢国八幡神社碑」と刻まれた石柱が建ち、往時を偲ぶよすがとなっています。志氐神社は、ここから西へ約800m(四日市市大宮町)にあります。主祭神は、気吹戸主神(いぶきどぬしのかみ;祓戸の神(ハラエドノカミ)ともいい、祓を行う場所である「祓戸(はらえど)」を守る神)。創祀年代は明かではありませんが、社記では垂仁天皇の頃といいます。

 ちなみに、「一国一社の八幡宮」は国府八幡宮に由来するものとされます。この八幡神社の碑にも「伊勢国八幡神社」とありますから、ここが国府八幡宮であったということかもしれません。伊勢国の国府は、現在の鈴鹿市広瀬町・西富田町にあったとされます(こちら)。国府比定地から離れた場所に一国一社八幡宮が鎮座することもあるようです。

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 八幡地蔵堂・八幡神社跡から400mほど、堀切川を渡る直前に、松の木が一本。「かわらずの松」です。戦前まで、このあたりは松並木でした。戦後は、経済発展にともなって、道路の拡幅が行われ、また、松食い虫の被害を受けて、東海道の松並木は姿を消してしまいました。この松は、樹齢200年以上とされ、江戸時代からここを行き交う旅人を見守っていたといわれます。ここは、今は羽津というところですが、その昔は「かわらず(川原須)」と呼ばれていましたので、その地名からこの松は「かわらずの松」と名づけられ、大切にされています。

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 かわらずの松の先、スタートから3㎞の直前に志氐(しで)神社の一の鳥居と石柱、常夜灯などがあります。志氐神社は、上記の伊勢国八幡神社を合祀した先。神社は、この一の鳥居から400mほど北西に入ったところにあります。いろいろと見るべきものもあるようですから、一度行ってみたいとは思っていますが、まだ実現していません。往復800mの寄り道はちょっと厳しいです。

Img_8216c  あとから知ったのですが、八幡神社にあった常夜燈が、ここに移設されていました(こちら)。と書いてから写真を探したら、ありました。あまりよく見ずに撮ったようです(苦笑)。「天下泰平 八幡宮御神前 国家安全」と正面に刻まれています。

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 この鳥居の前には、東海道の両側に2つの大きな石があります。これらは「妋石(みよといし)(夫婦石)」と呼ばれていまImg_8213c す。志氐神社には、伊弉諾尊(イザナギノミコト)と伊弉冉尊(イザナミノミコト)も祀られていて、縁結び・夫婦円満のご神徳があるとされます。古書にも「婦女の婚姻を求むる祈願を之になす」と記述があり、古来より、東海道を行き交う多くの旅人は、この夫婦一対妋石をなでて、縁結び・夫婦円満の願いを込めたといいます。石は、鳥居のところに1つ(右の写真)、道を挟んだところにもう1つ(左の写真)あります。と書きながら、見て写真を撮ってくるだけでなく、きちんと撫でて、夫婦円満を願ってきた方がよかったかも知れません。これが失態にならないよう日々努力しなくては。

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 このすぐ先(100mあまり)には、初野山摂護殿光明寺があります。真宗本願寺派のお寺。元は大矢知村青木谷にあったといいます。弘仁年間(810~824年)に空海が諸国を巡回した時に、小堂を建てたのが始まりと伝わっています。寛正元(1460)年に、下野国高田の専修寺第10世眞慧上人が諸国巡化の際、最初に近江国坂本の妙林院(浄土真宗寺院。真慧が専修寺の出張所として創建したものの、廃絶。跡地不明)から光明寺に来錫し、約1年間在住して付近を教化した時に、当時の住職が改宗して浄土真宗高田派に転じたといいます。
Img_8237c 享禄年間(1528~1531年)に、羽津城主赤堀左京大夫盛義(宗昌)が出家して光明寺に入り善願と名乗り、現在地に寺を移して初野山青木堂光明寺と称しました。天正年間(1573~1591年)に京都興正寺の勧めにより、高田派から本願寺派に転じたとされます。寛文3(1663)年2月、雷により堂宇、宝物、記録等一切を焼失し、創建の年月、開基の事蹟、中古世代住職名等すべて不明になりました。第5世俊応の妹せつが青蓮院宮に仕えた関係で、皇族所縁の品々を下賜され保管していたのですが、これらは、戦災で焼失しています。

Img_8233c 光明寺の山門前には、「八十宮(やそのみや)御遺跡」の碑が建っています。八十宮は、霊元上皇の内親王(吉子内親王(よしこないしんのう);正徳4(1714)~宝暦8(1758)年;八十宮は幼名)で、正徳5年、7代将軍徳川家継の婚約者になったのですが、家継は翌年死去。享保11(1726)年内親王となり、同17(1732)年、19歳で仏門に入りました。徳川家継は江戸幕府の第7代将軍(在任:1713~1716年)ですが、宝永6(1709)年)7月3日生まれですから、婚約当時はわずか6歳。八十宮の方は、何と1歳で婚約しています。正徳6(1716)年閏2月18日(4月10日)に納采の儀を行ったのですが、そのわずか2ヶ月後、享保元(1716)年4月30日(6月19日)に家継は亡くなります。八十宮は、1歳7ヵ月で後家となってしまったのです。政治的な思惑が働いたのでしょうが、何ともいえない話。光明寺にこの「八十宮御遺跡」の碑があるのは、その宮付に光明寺第5世俊応の妹つねが召されたとされます(こちら)。碑は、昭和3(1928)年3月に桑名吉津屋町の寺本久治が建てています(寺本についてGoogleで検索すると、昭和22年の官報に名前が出て来ますが、どのような人物かは不明。こちら)。

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 境内には、森多三郎記念碑とその墓碑があります。文久元(1861)年、桑名藩が過酷な年貢米の増徴を命じたのに対し(当時の藩主は、松平定敬)、これを阻止しようと、羽津村組頭村方三役の一つで、名主、庄屋を補佐する役目)であった森多三郎ら17名が先頭に立って藩に抵抗しました。その結果、藩は年貢の増徴を断念することになったのですが、その後、多三郎は桑名藩庁に呼ばれて安永の料理屋に行き、毒酒を飲まされ、帰途、この光明寺までたどり着いたところで絶命したと伝えられています。この碑は、当時の羽津村の肝煎、組頭、小前惣代が藩の譲歩を勝ち取った記念に立てたもので、記念碑の前には、「釋浄諦信士」と刻まれた森多三郎の墓碑が建てられています。

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 光明寺から200m足らずのところで旧・東海道は、左に曲がり、国道1号線に入ります。スタートからは3.5㎞ほど。この190324kintetsuhikingtomida3_1 先、 金場町、三ツ谷と進みますが、このあたりで金場延命地蔵と、道標を1つ見逃しています。金場地蔵は、上記のように、八幡地蔵と兄弟地蔵ですから、惜しいことをしました。ただし、このあたりでは国道1号線の西側の歩道を歩きました。金場延命地蔵は、東側の歩道沿いにありました。このお地蔵様、もとは羽津村の南入口にあった結界地蔵でした。羽津の東海道の南端、二重川(ふたえがわ)にかかる堺橋のたもとの堤(今の金場町交差点付近)です。昭和48(1973)年、市道拡幅工事にともない、現在地に移設。道標は、県道9号と国道1号の分岐点、なが餅で有名な笹井屋支店の手前にあります。ここは、新濃州道と東海道の分岐点(金場町交差点)で、「右桑名 左四日市」と彫られているそうです。大正12(1923)年の建立。

Img_8267c  道標を見落としたのに気づいたのは、笹井屋支店を過ぎ、三ツ谷交差点を渡ってから。戻る元気がありませんでした。左の写真は、その笹井屋の支店。実は、本店より立派なのです。このあたりからは、実測ルートマップその3になりますので、今回はここまで。その3は、国寶元三大師道」道標や、多度神社、三ツ谷一里塚跡から。

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  • 林(高木)朗子, 加藤忠史, 林(高木)朗子, 加藤忠史: 「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか (ブルーバックス)

    林(高木)朗子, 加藤忠史, 林(高木)朗子, 加藤忠史: 「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか (ブルーバックス)
    たまにはこういう本も読まないと、認知機能が退化するかもしれないと思って(微苦笑)。というよりも、もともと神経心理学に興味がありましたので、本屋の店頭で見つけ、これは面白そうだと思って購入しました。うつ、自閉スペクトラム障害、ADHD、統合失調症、双極性障害など、現代人を悩ませる心の病について、脳にどのような変化が起きているか、最新の知見がまとめられています。最前線の研究者たちがわかりやすく説明しているのですが、知識ゼロで読むのはかなりキツいかも知れません。私は現役をリタイアして10年以上になりますが、その間にこれほど研究が進んだのかというのが正直な感想。心の病の原因は、1つとは限りません。心の病は「症候群」と見た方がよいと考えます。私自身が関わる自閉スペクトラム障害、ADHDなどの発達障害でもそうです。脳機能と心の病との関連について最新の知見を知りたい方にはおすすめ。 (★★★★)

  • 磯田 道史: 徳川家康 弱者の戦略 (文春新書)

    磯田 道史: 徳川家康 弱者の戦略 (文春新書)
    本の帯に「大河より面白い!」とありますが、本当にそうでした。午前中の散歩のついでに買ってきて、夕食までに一気に読み終えてしまいました。もったいない気がするくらい。松平元康がいかにして徳川家康になったか、さらに徳川将軍家がいかに続くよう礎を築いたかが、よく分かりますし、戦国時代から徳川幕府創世記までの歴史を見る目が養われる本です。それというのも、著者の磯田さんが古文書の権威で、一次史料を読みこなすだけでなく、場合によっては価値が怪しい資料まで傍証に用いて(怪しい資料でも使い道があるというのも良く分かりました)、ご自身の頭で考えた結果を実に分かりやすく解いてくれてあります。徳川家康の弱者の戦略のキーワードは、「武威」と「信頼」ということです。また、情報の取得、解読にも意を尽くしたことがよく分かります。混迷を深める世界情勢を読み解いて、我が国が進む方向を考える上でも役に立つ一冊。 (★★★★★)

  • 井手 正和: 発達障害の人には世界がどう見えるのか (SB新書)

    井手 正和: 発達障害の人には世界がどう見えるのか (SB新書)
    発達障害、とくに自閉スペクトラム症(ASD)の方では、感覚過敏や感覚鈍磨をよく伴います。「照明で目がチカチカする」「皆が話している教室では。音が鳴り響き絶えられない」「ケガをしてるのに、痛みを感じない」などさまざまな状況を呈します。著者は実験心理学や、認知神経科学を専門とし、ASDの方に見られる感覚過敏、感覚鈍磨は、脳機能の特性から来ていることを明らかにしてきています。ASDなど発達障害のあるご本人はもちろん、親御さん、教師など関わりを持つ方々は、このことをよく理解して支援にあたることがとても重要です。ASDを始めとして発達障害について、「わがまま」「自分勝手」「やる気がない」などと捉えてしまうと、支援どころか、理解もできなくなります。脳の働きによってさまざまなことが生じてきているという視点が必要不可欠です。この本は、感覚過敏・感覚鈍磨を手がかりにそういう視点について理解を深められます。 (★★★★)

  • 日本放送協会,NHK出版: NHK 100分 de 名著 中井久夫スペシャル 2022年 12月 [雑誌] (NHKテキスト)

    日本放送協会,NHK出版: NHK 100分 de 名著 中井久夫スペシャル 2022年 12月 [雑誌] (NHKテキスト)
    2022年12月のNHKのEテレ「100分de名著 中井久夫スペシャル」のテキストです。今頃(2023年2月)これをリストアップしているのはどうかという気もしますが、録っておいたビデオをみたのが最近なのです。中井久夫さんは、2022年8月にお亡くりになりましたが、日本を代表する精神科医のお一人であり、翻訳家、文筆家としても一流でした。現役の頃、中井さんの本はたくさん読みました。臨床心理学の分野でも「風景構成法」を導入した方として知られています。Eテレの講師である齋藤環さんは、中井さんを評して「義と歓待と箴言知の人」と書いておられますが、まさにそういう気がします。『最終講義』『分裂病と人類』『治療文化論』『「昭和」を送る』『戦争と平和 ある観察』が紹介されています。現在もウクライナで戦争が続いていますが、中井は「戦争は過程、平和は状態」とし、戦争は物語として語りやすく、とにかくかっこよくて美しい、それが問題だといいます。一方、平和は分かりにくく、見えにくいため、心に訴える力が弱いとします。「状態を維持する努力はみえにくい」のですが、戦争と平和に限りません。普段通りの日常生活を維持していくのも同じような気がします。戦争を経験していない人間が指導者層の多くを占めるようになると戦争に対する心理的抵抗が低くなるともいいます。「戦争には自己収束性がない」とも中井さんはいっています。われわれはやっかいな時代に生きていると痛感します。中井さんの本を多くの方が読むと、時代も変わるかも知れません。 (★★★★★)

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    桑名と名古屋の宮を結んだ東海道唯一の海路「七里の渡し」をテーマにした歴史本です。船頭が旅人を案内しながら、七里の渡しを渡った歴史上の24人を紹介する内容。やさしい話し言葉で紹介されており、読みやすい本です。徳川家光、松尾芭蕉、明治天皇などが取り上げられています。著者は、桑名で歴史案内人をしながら、街の歴史を研究している、街道好きの方です。本は、桑名市内の書店とメルカリで¥1,200で販売。 (★★★★)
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    今年1年、何の因果か(などと書くとお叱りを受けること必至ですが)、住んでいるマンションの管理組合の理事長を仰せつかっています。今年は、エレベーターリニューアル工事が最大のイベントで、それは無事に済んだのですが、前理事長から8年後に迫った第3回大規模修繕に向けて、修繕積立金が不足する見込みと申し送られました。確かにかなりの金額が不足しそうで、頭を悩ませていました。マンションに住みながら、そもそも基本的な知識が不足しており、管理会社のフロントマンの方の協力を得ながらシミュレーションなどをしていました。ネットであれこれ調べてはいたものの、それで得られる知識は体系的なものではありませんでした。この本は、事例を元にマンション管理について必要な知識が得られるように書かれており、まだすべて読み終えてはいないものの、とても役に立っています。任期残り2ヶ月半となって付け焼き刃ではあるものの、次の理事会に具体的に課題を申し送ることができるよう勉強中(笑)。 (★★★★)

  • 宮口 幸治: ドキュメント小説 ケーキの切れない非行少年たちのカルテ (新潮新書)

    宮口 幸治: ドキュメント小説 ケーキの切れない非行少年たちのカルテ (新潮新書)
    「ケーキの切れない非行少年たち」や「どうしても頑張れない人たち」の著者である宮口幸治さんの新刊です。前2著の内容をよりよく理解できるよう、「ドキュメント小説」として書かれたものです。主人公は、精神科医の六麦克彦。医局から派遣されて要鹿乃原少年院に勤務して5年。彼がそこで目にしたのは、少年院に堕ちてきた加害者ながら、あらゆる意味で恵まれず、本来ならば保護されてしかるべき「被害者」と言わざるを得ない少年たちでした。この内容は、前の2冊のように普通の新書では書き尽くせるものではなく、物語の形を借りざるを得なかったのでしょう。ただし、普通の小説として読むのには少し苦労するかも知れません。特別支援教育が普及して、知的障害や、発達障害のある子どもへの教育や支援は、以前に比べれば改善されてはいますが、最近は、家族の養護能力が十分でなかったり、親など家族自身に支援が必要なケースもたくさんあります。こうした中には、この本で取り上げられたような結末に至ることがあっても不思議ではないという気がします。極端な事例が集められていると思われるかも知れませんが、社会全体として真剣に取り組むべき課題が突きつけられています。 (★★★★)

  • 本田秀夫: 学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち (SB新書)

    本田秀夫: 学校の中の発達障害 「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち (SB新書)
    本田秀夫先生によるこのSB新書の4冊目のシリーズ。今回は、発達障害のあるお子さんの学校選び、学級選び、友達関係、学習や学力の悩み、不登校など、発達障害のあるお子さんの学校生活全般にわたって、どのような考え方に基づいてサポートしたら良いかについてまとめられています。それぞれ、親と先生とが、どのように取り組むことが基本となるか、解説されています。対策よりも予防的な工夫をコミュニケーション(要求ではなく)に基づいて行う、「学校の標準」を緩める、登校や成績を気にしすぎず、社会に出るための土台作りを考える、発達の特性には寛容になる、学びを大切にするが学力にこだわりすぎない、親と先生とが気づきを伝え合い相談、調整する、子どものモチベーションを重視するなど、具体的に書かれていて、分かりやすくなっています。発達障害のあるお子さんが小中学校で充実した学習が進められるための基本的な考え方やヒントが詰まっていますので、親御さんにも、先生方にもお勧めできます。 (★★★★★)

  • 佐々木秀斗: 小学生博士の神社図鑑 ぼくの近くにはどんな神さまがいるの?

    佐々木秀斗: 小学生博士の神社図鑑 ぼくの近くにはどんな神さまがいるの?
    サンドウィッチマン&芦田愛菜ちゃんMCの「博士ちゃん」に「三国志博士ちゃん」、「日本の神様博士ちゃん」として2回出演した佐々木秀斗君の自由研究を本にしたもの。何故これをここに取り上げたかというと、私のブログに載せた立坂神社の緑色の鳥居について、写真を提供して欲しという依頼が出版社からあったのです。私が提供した写真は、本書の162ページに「提供:猫の欠伸研究室」として載っています。ざっと読みましたが、大人でも、古事記や神社についてよく知らない方が、最初に手に取って基本的なことがらを知るには、わかりやすくて良い本だと思います。 (★★★★★)

  • 森 博嗣: 読書の価値 (NHK出版新書)

    森 博嗣: 読書の価値 (NHK出版新書)
    ネットで見つけ、新刊かと思って購入したのですが、4年前の本でした(微苦笑)。 若い頃に森博嗣さんの小説をすべて読んでいました。いつの頃からか、小説は読まず、森さんのエッセイだけを読むようになっています。「読書の極意を教える」と帯にはあります。もちろんそれについて書かれているのですが、私にはある種の知的生産の技術について著者の方法を開示していると読めます。「何でも検索できる時代にも、本を読む意味がある」というのは、よく首肯できます。また、「教養とは保留できる能力をいう」というのも確かにそうだと思います。自分の問題として抱続けられ、また、考え続けられるのは、容易ではありませんから。 (★★★★★)

  • 井川香四郎: 別子太平記 : 愛媛新居浜別子銅山物語 (文芸書)

    井川香四郎: 別子太平記 : 愛媛新居浜別子銅山物語 (文芸書)
    愛媛県新居浜市にあった別子銅山は、元禄3(1690)年、伝説の切上り長兵衛によって発見されてから、昭和48(1973)年の閉山まで、283年間にわたり、累計65万トンの銅を産出しました。これは、世界の銅の産出量の1/6にも達するといいます。巨大財閥住友の礎となっただけでなく、日本の貿易や近代化にも大きく貢献したのがこの別子銅山です。江戸時代には貨幣改鋳にも深く関わった世界屈指の鉱山を舞台に、そこに関わった人達を鮮やかに描いた、本当の意味での大河小説です。徳間時代小説文庫で読みました。  (★★★★)

  • 養老孟司, 池田清彦: 年寄りは本気だ―はみ出し日本論―(新潮選書)

    養老孟司, 池田清彦: 年寄りは本気だ―はみ出し日本論―(新潮選書)
    養老孟司先生と池田清彦先生の対談であれば、外れはありません。サブタイトルのように、「はみ出し日本論」ではありません。ど真ん中の日本論といってもよい本で、楽しみながら読めます。しかし、それは、自分のアタマできちんと考えているからこそ論じられる内容だと思います。常識や、マスコミで報道されることがらだけをフォローしていては、こういう風に考えることはできません。きちんとした理論、知識、データに基づかなければなりません。さらには、物事を捉える大きな枠組み、私の世代にとっては「パラダイム」といえるものが必要。それも、確固たるパラダイムが必要です。私にとってそれはある種の理想なのですが、なかなか難しい。しかし、まぁ、年寄りになったからこそ見えるものや、年寄りなりの知恵も働くようになるということもありますから、養老・池田の「怖いものなし」コンビを1つの目安として、言うべきこともいえるようになりたいものです。 (★★★★★)

  • 土井 善晴: 一汁一菜でよいと至るまで (新潮新書)

    土井 善晴: 一汁一菜でよいと至るまで (新潮新書)
    先に同じく土井善晴さんの「一汁一菜でよいという提案」を挙げましたが、入手したのはこちらが先。「一汁一菜でよい」というスタイルに至るまでの土井さんの修行、出会い、発見、迷いなどなどが書かれています。「家庭料理に失敗なんて、ない」、「すべては人を幸せにする料理に繋がる」というのが基本。具だくさんの味噌汁はおかずの1つになる。余裕があれば、食べたいものや、食べさせたいものをその都度調べてつくればよい。一汁一菜を入り口にして、一つ一つおかずをつくってみて、10種類ほどでもできるようになれば、それで幸せに一生やっていける。といった話があり、へぇーと感心させられました。これだけで健康に健やかに自足できるとも述べられています。一汁一菜なら、私にもできる、でしょうか?? (★★★★★)

  • 土井善晴: 一汁一菜でよいという提案(新潮文庫)

    土井善晴: 一汁一菜でよいという提案(新潮文庫)
    著者の土井善晴先生は、私と同世代。そして、私の世代にとってはあの土井勝さんの息子というイメージが強くあります。テレビなどにもよく出ておられ、なかなか面白い視点でものを見る人だなと思っていました。この本は,出版された当時(2016年秋)から知っていたのですが、手に取ったのはごく最近。文庫本を探していたのですがなかなか遭遇しなかったのです。「一汁一菜でよい」というのは、ご飯と具だくさんの味噌汁があればよいということです。家庭料理についての提案なのですが、実は、この本はもっと奥深いことを述べています。一言で言えば、日本文化や日本人の哲学について述べる中で、食や生活、生き方などについても論じられています。解説を書いておられる養老孟司先生は、それを「自足の思想」と表現していらっしゃいます。優しい、わかりやすい本ですが、実は奥が深い。著者の端正さもよく表れています (★★★★★)

  • 奥山 景布子: 流転の中将

    奥山 景布子: 流転の中将
    幕末の桑名藩主・松平定敬を描いた歴史小説。定敬は、実の兄で会津藩主である容保とともに徳川家のために尽くそうとしたものの、最後の将軍・徳川慶喜に振り回され、裏切られてしまいます。定敬は、それでも抗おうとしたのですが、国元の家臣たちはいち早く恭順を決め、藩主の座も追われてしまいます。朝敵といわれ、越後、箱館から上海まで流浪した定敬の波乱に満ちた人生と、秘めたる思いが生き生きと書かれています。定敬については、歴史講座で学んだり、本で読んだりしてきましたが、小説家の手にかかるとこのように立体的に、活き活きと動き出すものなのだと実感します。 (★★★★★)

  • サトウタツヤ: 臨床心理学小史 (ちくま新書)

    サトウタツヤ: 臨床心理学小史 (ちくま新書)
    たまには専門のアカデミックな本も取り上げます(微笑)。本屋でみつけ、購入。この本は、同じ著者が東大出版会から昨年刊行した「臨床心理学史」で果たせなかったことを果たそうと構想されたもの。果たせなかったのは、日本の臨床心理学史に触れることと、コンパクトな歴史記述だそうです。東大出版会の本は、読んでみたい気もしますが、¥7,000もしますし、内容もハードそうです。こうして臨床心理学の歴史を俯瞰してみますと、やはり実験心理学を抜きにしては臨床心理学も語れないといえます。私個人の考えでも、臨床心理学を学び、実践するには、実験心理学を学び、実験・調査などの方法で研究をした経験が必須です。臨床心理士、公認心理師の資格に関わり、心理学を志す人は多く、また、大学でも臨床心理学部や臨床心理学科もあります。しかし、私は、自分自身の経験からもやはり、実験心理学などの基礎心理学を抜きにして、臨床心理学は成り立たないと考えますし、学生も実験心理学を含めた基礎心理学を、少なくとも学部段階ではきちんと修得した方がよいと思います。本書を読んで、その考えはいっそう強くなりました。 (★★★★★)

  • 昭文社 旅行ガイドブック 編集部: 三重のトリセツ

    昭文社 旅行ガイドブック 編集部: 三重のトリセツ
    本屋に別の本を買いに行って見つけ、即買い(微苦笑)。私の好むタイプの本です。三重県の地形や地質、歴史、文化、産業などを、地図を読み解きながら紹介するマップエンターテインメント本。地図も歴史も文化も好きなのです。地図で読み解く三重の大地、三重を駆ける充実の交通網、三重の歴史を深読み!の3部構成。2017年11月にたまたまみつけたJRさわやかウォーキング「~四日市市制120周年記念~ 家族みんなで楽しめる四日市旧港街歩き」に行って以来、JRさわやか、近鉄ハイキング、勝手にハイキングで県内や近郊のあちこちに電車で行って電車で帰るハイキング/ウォーキングをしています。それによって訪ねたあちこちのことが改めてまとめられていて、とても楽しめます。各県のバージョンが出ているようです (★★★★★)

  • 磯田道史: 歴史とは靴である (講談社文庫)

    磯田道史: 歴史とは靴である (講談社文庫)
    歴史家・磯田道史さんが、鎌倉女学院高校で行った特別授業の記録と、ビリギャルの小林さやかさんなどとの対談を収めてあります。基本的には、「歴史の見方」についての本なのですが、それに留まりません。ものの見方、考え方を説いた内容です。むしろ、ものの見方、考え方を学びたい方にお勧めしたいと思うくらいです。ちなみに、タイトルは、「歴史は好きか嫌いかの嗜好品ではなく、安全に世の中を歩くためのむしろ実用品である」という意味です。これは、歴史の見方について、あまりよく理解されていないポイントと思います。講義録ですから、読みやすく、しかも大変おもしろい本です。 (★★★★★)

  • 久住 祐一郎: 江戸藩邸へようこそ 三河吉田藩「江戸日記」 (インターナショナル新書)

    久住 祐一郎: 江戸藩邸へようこそ 三河吉田藩「江戸日記」 (インターナショナル新書)
    この著者の前著「三河吉田藩・お国入り道中記」で読んだ、三河吉田藩(豊橋)の参勤交代の話も大変おもしろく読めましたし、江戸時代の藩邸の様子、殿様や家臣の仕事、暮らしなどに興味があったので、読んでみました。三河吉田藩に残る「江戸日記」などの古文書から、江戸の大名屋敷がどのようなところであったか、江戸で働く武士の状況、江戸の藩邸で起きた事件のいろいろ、藩邸の奥向きの様子、さらには、明治維新後の藩邸から子爵邸への変化について、リアルな武士の暮らしのもろもろがまとまっていて、とても興味深く読めました。三河吉田藩は、現在の愛知県豊橋市にあり、松平伊豆守家が長く藩主を務めています。松平伊豆守家は、「知恵伊豆」の異名を持つ松平伊豆守信綱を初代とし、忍藩、川越藩、古河藩、吉田藩、浜松藩と国替えを繰り返した後、寛延2(1749)年から明治維新まで三河吉田を治めています。 (★★★★)

  • 安藤 優一郎: 江戸の旅行の裏事情 大名・将軍・庶民 それぞれのお楽しみ (朝日新書)

    安藤 優一郎: 江戸の旅行の裏事情 大名・将軍・庶民 それぞれのお楽しみ (朝日新書)
    サブタイトルに「大名・将軍・庶民 それぞれのお楽しみ」とあり、さらに、オビには「300年前は えっ!? 今よりもっと愉快な旅行天国」ともあります。ただし、旅行を心から楽しめたのは、庶民に限られていたようです。参詣者を増やしたい各地の寺社、温泉、宿泊業者が積極的に営業したからです。一方、武士や大名は、トラブルメーカーだったといいます。公用で旅行したり、参勤交代したりなのですが、宿泊料のダンピング、備品の破壊などなどトラブルをまき散らしながらの旅であったり、権威を笠に着たりで、あまり歓迎されなかったようです。江戸時代の旅のエピソード満載で、楽しめる本です。 (★★★★)

  • 藤田 和弘, 熊谷 恵子, 熊上 崇, 星井 純子, 熊上 藤子: 心理検査のフィードバック

    藤田 和弘, 熊谷 恵子, 熊上 崇, 星井 純子, 熊上 藤子: 心理検査のフィードバック
    この本は、WISC-ⅣやKABC-Ⅱなどの知能検査の結果(アセスメント情報)を「子どもの自立と社会参加」により役立つものにしていくには、どのように伝えたらよいか(フィードバック)についてまとめられています。過去には、保護者、学校の担任、子どもたち自身に知能検査の結果を伝えることはされていませんでした。しかし、現在では、苦戦している子どもたちが、自分のことを理解し、自分なりにも工夫して、学習や生活スキルを向上させ、将来の自立と社会参加につなげるために、知能検査の結果(アセスメント情報)を子どもたち自身にも伝えるようになってきています。私も、相談では、お子さんに直接、フィードバックを行い、子どもたち自身が自己理解を深め、意欲的、積極的に取り組めるようにしています。この本は、子どもと支援をつなぐ、支援者をつなぐという視点から、心理検査のフィードバックについて基礎から応用、事例を含んでその全体像を把握できる、優れたものとなっています。 (★★★★★)

  • 新潮文庫: 文豪ナビ 藤沢周平 (新潮文庫)

    新潮文庫: 文豪ナビ 藤沢周平 (新潮文庫)
    藤沢周平の作品案内、小説に見られる名言集、映像化された作品の出演者や、関係者による評伝などによって藤沢周平の作品についてすべてとはいいませんが、かなりが分かります。私は、藤沢周平の小説が好きで、たぶんほとんど読んだと思います。ただそれは、15~6年以上前のことで、リストアップもしていませんから、すべて読んだかどうかについては、不確か。こういう本を読むと、もう一度読もうかという気になります。この本では、娘の遠藤展子さんの「父にとっての家族」がもっとも興味深く読めました。また、藤沢周平の言葉で私が気に入っているのは、「普通が一番」です。ほかにも、「挨拶は基本」「いつも謙虚に、感謝の気持ちを忘れない」「謝るときは素直に非を認めて潔く謝る」「派手なことは嫌い、目立つことはしない」「自慢はしない」という言葉が、遠藤さんが父から言われて心に深く残っていることばだそうです。 (★★★★)

  • 千正康裕: 官邸は今日も間違える(新潮新書)

    千正康裕: 官邸は今日も間違える(新潮新書)
    新型コロナのまん延にともなって、政治的な判断や、もろもろの政策は、迷走したといってもよいと思います。突然の全国一斉休校要請、いわゆるアベノマスクの配布や、閣議決定をやり直した一律給付金など、なぜああいうドタバタになるのか、国民の信頼が得られなかったというか、失ったというのか、ずっと疑問を抱いていました。著者は、元厚生官僚で、社会保障・労働分野で仕事をし、現在はコンサルティング会社を経営。この本では、最近のコロナ禍での出来事の背景を記述する中から、官僚主導から官邸主導への変化に、政治の仕組みの変化がついて行けていないからだとしています。これに関して、政治家、官僚ともに仕事のやり方を変えることが必要であるとともに、国民の側にも良い政策をつくるためには望まれることがあるといいます。 (★★★★)

  • 嶋田 哲郎, 森本 元: 知って楽しいカモ学講座 : カモ、ガン、ハクチョウのせかい

    嶋田 哲郎, 森本 元: 知って楽しいカモ学講座 : カモ、ガン、ハクチョウのせかい
    「観察するのが面白くなる! ガンカモ類のひみつ」というキャッチコピーです。私がほぼ毎日散歩に行く九華公園の堀には、秋が深まるとカモたちがやってきます。キンクロハジロが最も多く、次いでハシビロガモ。他にはヒドリガモやホシハジロも数少ないものの来ています。カルガモ、カイツブリ、オオバンなども来ることがあります。これらカモやその仲間、近縁種についてもっとよく知り、観察のポイントを増やしたいと思って、この本を読んだ次第。著者は、宮城県の伊豆沼・内沼をフィールドとする専門の研究者。形態的な特徴と行動との関連性、渡り、繁殖地での暮らし、越冬地での生活など、ガン・カモ類について、ちょっと専門的な部分も多いものの、一通りの知識を得られ、また、行動観察などの方法についても知ることができました。 (★★★★)

  • 田中優子: 遊廓と日本人 (講談社現代新書)

    田中優子: 遊廓と日本人 (講談社現代新書)
    「江戸学の第一人者による「遊郭入門」の決定版!」と帯に書かれていて、ついつい手に取ってしまいました。遊郭にはとても興味があります。などと書くと「好色な人物か」と思われるかも知れません(苦笑)。遊郭や遊女は、今日の人権やジェンダーの観点からすると、許されない存在です。これは間違いのないことですが、一方で、たとえば、江戸時代の吉原遊郭の花魁と呼ばれたようなハイクラスの遊女は、高い教養を持ち、芸事や生け花、茶道にも通じていました。ある意味で日本文化の守り手でもあったという面も持っているのです。こうした観点から著者は、「遊郭は二度とこの世に出現すべきではなく、造ることができない場所であり制度である」と述べています。ちなみに、「好色」ということばの意味は、平安時代以来、和歌や琴、舞などの風流、風雅を好む人を「色好み」と呼んでいたことによります。「色」には恋愛や性愛という意味もありますが、もともとは恋愛と文化的美意識が組み合わさったものだそうです。 (★★★★)

  • 養老孟司: ヒトの壁(新潮新書) 「壁」シリーズ

    養老孟司: ヒトの壁(新潮新書) 「壁」シリーズ
    養老先生が、コロナ禍の2年間でお考えになったことの集大成です。新型コロナウイルス感染症が蔓延し始めた頃、NHKのBSの番組「まいにち 養老先生、ときどき まる」だったかで、「老人は、もともと不要不急の存在だ」とおっしゃった気がしますが、この本は「人生は不要不急か」という章から始まっています。これがたぶんコロナ禍や、養老先生ご自身のご病気(心筋梗塞)を経験し、お考えになった結論の1つ。さらに、不要不急の人生ではあるものの、それでも生きる価値はどこにあるか様々な視点から考察されています。「人生とはそんなもの」と思いつつ、自分に居心地の良い場所をつくりながら、万事テキトーに終わるのが良さそうです。 (★★★★★)

  • 松原,始: カラスの教科書

    松原,始: カラスの教科書
    ちょっとマニアックな本と思われるかも知れません。そもそもカラスに好意を抱いている方は少ないでしょうし(微笑)。カラスには、「賢い」というイメージもありますが、ゴミをあさって、カアカアとうるさい、真っ黒で気持ち悪いなど「嫌われ者」といってよいかも知れません。私もバードウォッチングをしますが、カラスの写真はほとんど撮っていません。しかし、九華公園などでは、カラスがいるとついついその行動を見てしまいます。よくよく見るとやっていることは、結構おもしろいのです。本書に引用されていますが、ある鳥類学者のことばによれば、「小心者でお調子者」だそうですが、頷けます。ところで、カラスとひと言で言っていますが、何種類もいるのはご存じでしょうか? 街中でよく見るカラスでさえ、ハシボソガラスとハシブトガラスの2種類がいます。同じカラスといっても、この2種類だけでも行動パターンはかなり違います。さらに、記紀に登場するカラスもいます。八咫烏(ヤタガラス)です。このカラスは、神武天皇一行が熊野山中で道に迷った際、道案内として遣わされています。そのため、熊野本宮大社などのシンボルになっています。カラスの迷宮に入り込んでしまうと、おもしろいことがたくさんあって、出て来たくなるかも知れません。すべての方にお勧めする本ではありませんが、物好きの方にはよいかも(微笑)。 (★★★★★)

  • 竹内政明 : 「編集手帳」の文章術 (文春新書)

    竹内政明 : 「編集手帳」の文章術 (文春新書)
    何を今さら「文章術」なのか? と訝られる向きもおありでしょう(微笑)。どこで読んだか忘れてしまったのですが、ある方の文章で文章術の本としては、これがベストと書いてあったので、気になったのです。いろいろと反省するところ多々あり、でした。しかし、その一方で「耳で書く」など、ずっと以前から心がけていて、学生にもレポートを書く際に注意事項として伝えていることもありました。私は、音読すると、論旨があいまいなところや、日本語がヘンなところがよく分かると考えていましたが、著者も同様のことを書いておられます。自分の文章術(などという大げさなものはありませんが)も、あながち独断と偏見ではなかったと安心したところもあります。その他、明示されてはいませんが、ひとまず書いた上で読み直し、推敲して、削っていくというのもありのようです。文章の書き方にかなりご関心がおありの方には、お読みになるとよいでしょう。 (★★★★)

  • BIRDER編集部: BIRDER (バーダー) 2021年 11月号 [雑誌]

    BIRDER編集部: BIRDER (バーダー) 2021年 11月号 [雑誌]
    この号の特集は、「お散歩バードウォッチングのススメ」。まさに、私が毎日実践していること。表紙がいつもとは違って、今風のイラストなのはちょっと気になりますが、それはともかくとして、冬にオススメのアウトドア、身近な鳥見スポットを探せ、あなたの鳥見散歩教えてください-鳥見散歩のすすめ-といったテーマが並んでいます。かねてからバードウォッチングは、いつ、どこでも楽しめる趣味と考えています。散歩しながらのバードウォッチングは、まさに一石二鳥どころか、一石何鳥にもなります(微笑)。今日(2021/10/24)も2ヶ所で、13鳥。うまく行けば2~3時間近所を歩いているだけでもっとたくさんの鳥に出逢えます。是非とも同好の士を増やしたいと思っています。ご関心がおありの方は、ご一読をオススメします。 (★★★★★)

  • 本田秀夫: 子どもの発達障害 子育てで大切なこと、やってはいけないこと (SB新書)

    本田秀夫: 子どもの発達障害 子育てで大切なこと、やってはいけないこと (SB新書)
    本田秀夫先生の発達障害3部作の最新刊。これを書いている時点では、発売日前なのですが、本屋に立ち寄ったら売っていたので、買ってきて一気読みしました。私も発達障害のあるお子さんの相談に携わっていますが、これまでの助言と一致していたところもたくさんありますし、なるほどそういう風に考えればよいのかと思うところも多々ありました。発達障害についての解説本はたくさん出ていますが、その育て方、しかも、子どもを主役にした育て方の本はほとんどなかったでしょう。この本は、子どもを主役にした、幼児期から思春期に入る頃までの発達障害のあるお子さんの育て方、どのように育っていくかを丁寧に解説しています。発達障害のある子どもとはどういう子どもなのかからスタートしています。ポイントは、そのお子さんは、どんなお子さんなのか、また、そのお子さんがとっている行動は何に由来するのかをきちんと見て、捉えることからスタートするということ。親の都合で、「こういう子どもになって欲しい」という考え方から抜けることが必要と説いていますが、まさにその通りと思います。具体的な内容は多岐に渡っています。ほめ方・叱り方、暮らし方、発達障害の子の育て方といったないようになっています。載っている方法をそのまま使うのではなく、「うちの子のことだ」と思ったことを取り入れ、他は参考程度に読むとよいと著者が書いていますが、これも重要なポイント。発達障害のお子さんをもつ親御さんだけでなく、関わりのある方には是非ともご一読をお勧めします。 (★★★★★)

  • 本郷和人: 世襲の日本史: 「階級社会」はいかに生まれたか (NHK出版新書)

    本郷和人: 世襲の日本史: 「階級社会」はいかに生まれたか (NHK出版新書)
    この本の内容は、以前、マイブックスにあげた「 日本史の法則 (河出新書)」にも、「地位より人、血より家-世襲が強い-」として取り上げられています(出版は、今回の「世襲の日本史」の方が、2019年と先)。世襲というのは、今も、政治家、芸能人、医者、実業家などあちこちで見られます。「売り家と唐様で書く三代目」ということわざがあったり、「三代目が会社を潰す」という話があったりします。しかし、著者がいうには、日本では「地位より人」と考えられてきており、その「人」というのは、その人が受け継いでいる「血」であるといいます。より慎重に見ると「血よりも家」で、「家が肝心・要」というのが大原則だそうです。インドのカーストのように細かな具体性を備えていないので、人々の意識に浸透しやすく、そのため未だに世襲を黙認する社会意識を産み、さらにまたそれが、格差社会を容認する空気につながっていると著者は考えています。歴史上、世襲がなかったのは、明治維新。明治維新では能力主義が徹底され、いわゆる明治の元勲たちも、個人の財産は別として、地位などは世襲させませんでした。いわゆる「立身出世」がそれ。これは、画期的でしたが、続きませんでした。世襲という原則の方が勝ったのでしょう。著者は、「日本の歴史はぬるい-変わるときは外圧-」ともいっています。明治時代に立身出世となったのは、「黒船襲来」という外圧によるものでした。現代の外圧は、「人口減少」だと著者はいっています。江戸時代、地方で育った人材が、明治維新で根こそぎ東京に持って行かれましたが、もう一度、地方からやり直すということが必要とも著者はいいます。 (★★★★)

  • 本郷和人: 日本史の法則 (河出新書)

    本郷和人: 日本史の法則 (河出新書)
    著者の本郷和人さんは、東京大学史料編纂所教授。テレビにも出ておられますし、一般向けの歴史書もたくさん書いておられます。専門は日本中世史。この本は、日本の歴史がどのように動いてきたかを、本郷さん独自の視点(通説とは異なるとらえ方をなさっているところも多々あるようです)から説いたもの。「日本は西高東低」「歴史は一つではない」「日本の歴史はぬるい-変わるときは外圧-」「信じるものは救われない」「地位より人、血より家-世襲が強い-」「日本社会は平和を選んだ」という6つの論点から考察されていますが、これがなかなかおもしろい。「蒙を啓かれた」と書くと、ちょっと大げさかも知れませんが、なるほど、そういう風に見るとよく分かるということが多々ありました。いつ、どこで何があったということだけではなく、もうちょっと物語的に、どういう動機でそうなったかという視点を導入すると、歴史がもっとおもしろくなるんだと実感した本。 (★★★★★)

  • 吉田 友和: ご近所 半日旅 - いちばん気軽な「新しい旅」のスタイル - (ワニブックスPLUS新書)

    吉田 友和: ご近所 半日旅 - いちばん気軽な「新しい旅」のスタイル - (ワニブックスPLUS新書)
    本屋で偶然見つけてついつい買ってしまいました。タイトルを見たとき、「ご近所半日旅」なら、私自身が、近鉄ハイキングやJRさわやかウォーキングから派生して「勝手にハイキング」と名付けて歩いているのが、それに相当するのだろうと思いました。これで1冊、本が書けるのかというのが読む前の感想。勝手にハイキングや、普段の散歩に新たな視点、やり方、楽しみ方が導入できるかと思って読んだ次第。ご近所半日旅は「いちばん気軽な『新しい旅』のスタイル」と銘打っていますが、コロナ禍の現在、そうかも知れません。心得七ヵ条があげられていましたが、私としては、①お金をかけて楽しもう、④疲れることは基本的にしない、⑦予定を決めすぎないという3点に啓発されました。また、⑥スマホをうまく活用せよにあったグーグルマップの使い方などにも興味が持てました。長く続けていると、自分なりのスタイルができあがってきますが、別の見方をするとマンネリに陥っているともいえます。こういう本で刺激を与えると、私の中に新しいものが生まれてくるかも知れません。コロナで旅行に行けなくなったと嘆いておられる方、自分の住んでいる近所なんかにおもしろいところなんかあるのかと思っておられる方、一読なさると、新しい世界が開けます。 (★★★★)