七里の渡しから,旧・東海道筋を少し歩いて,春日神社に向かう途中に“歌行燈<うたあんどん>”という,このあたりでは有名なうどん屋があります.“歌行燈” という店名は,泉鏡花の小説に由来します.小説“歌行燈”は,明治43年1月の『新小説』に発表され,ときに,鏡花,38歳でした.この前年,鏡花は,伊勢への旅の途上,桑名に一泊したといいます.小説は,冬の桑名の月の夜,うどん屋の店先で酒をあおる旅芸人が女将を相手に三年前の因縁話を語り始めた頃,川口の旅籠・湊屋(現在の船津屋)では,芸妓・お三重が旅の老人に薄幸な身の上を明かす……という,2つの語りが交錯して,物語が進みます.“幽艶な陶酔境を現出させる”と形容される,鏡花文学の傑作の1つとされます.